2015年03月21日

水木しげると、ビンタ




水木しげる先生は、戦争中、
数え切れぬほど、上官に殴られたそうです。

当時、軍隊では、
畳と兵隊は、叩けば叩くほど、よくなる。
という信仰があったようです。

そのような、理不尽な状況下において、
初年兵という、軍隊におけるヒエラルキーの、
最下層に放り込まれれば、大抵のひとは、
盲目的に、従順にならざるを得ません。

そこへ、戦地という、極限状況においてなお、
水木しげるという、逸脱した個性は、
興味や探究心、または大いなる空腹が、
軍隊の規律や任務を上回ってしまうため(笑)、

僕は興味本位から、水木しげる初年兵は、
漫画の中で、いったい何発ビンタされているのか?

ビ× 1=1ビンタ、
語尾のビンも、ビン× 1=1ビンタと換算、
つまり、ビビビビビン、だと、5ビンタと勘定し、

数えてみようと思ったのですが、
161発を超えたあたりから、
なんだか涙が出てきて、数えるのを止めました(笑)

にもかかわらず、
この、ビビビビビン!という表現は、
悲惨さよりも、どこか滑稽さをにじませます。

僕は、こういった表現の方法から、
やはり、水木しげる先生は、漫画家として天才、
なのだと思います。

誰が言ったか、
戦争とは、正気と狂気を揺るがす、喜劇である。
という、言葉があります。

悲劇を悲劇のまま描くのは、
エンターテイメントとしては、二流のやることです。

かの、チャップリンも、戦争を喜劇として、
映画で表現しました。

僕がビンタを数えている途中、
最大、1コマで10発ビンタされている、
水木しげる初年兵がいました。

もしも僕が漫画を描けたなら、
きっと、凡庸に3〜4コマ、割ってしまうと思う。

恨みも込めて、最初か、最後の一発は、
これ見よがしに、見開きの大コマです(笑)

とてもじゃないが、ビビビビビン!じゃ、
済ませられない。

でもそれだと、駄目なんです。ただの悲劇なんです。
ビンタの痛みしか、伝わらないんです。

その背景にある、人が狂気へと至る過程、
人間が人間でなくなる光景。

それらが、デフォルメされた表現によって、
ほんの幽かに、浮かび上がる瞬間、
人は本当の、暴力の恐ろしさ、戦争の愚かさ、
といったものに、気付くのかも知れません。




tetsuya_ogawa19771125 at 17:37│Comments(0)TrackBack(0) 俺と水木しげる 

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